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琉球紅馬鈴薯

琉球紅馬鈴薯
 沖縄の青果市場から、こんなジャガイモが入ったんですが試してみてくださいと、メモが添えられて小さな段ボールが届きました。開けてみると、丁寧に新聞紙に包まれて出てきたものは、まだ掘り出したばかりの赤土にまみれた芋でした。

 赤い薄皮に包まれたメークインのようにスマートなジャガイモです。さっそく洗って、端っこにスッと包丁を入れてみました。切り口はほんのり黄身を帯びて肌理(きめ)も細かく、まるで赤ちゃんの肌のようです。早く食べてと言わんばかりに、包丁の刃先には白い澱粉(でんぷん)汁が滴っています。これは美味(おい)しそう。さて、何にしましょうか。

 伝票には、琉球紅馬鈴薯(ばれいしょ)と書かれていました。このところ沖縄から送られてくる野菜には名前に沖縄あるいは琉球と冠したものが多くなりましたが、沖縄固有のものとは限らないようです。送られてきたジャガイモは、戦前に札幌の試験場で誕生した紅丸が、沖縄で栽培されて琉球紅馬鈴薯と名付けられたのでしょう。

 沖縄の農業はいま、熱帯の気候を利用した果物やハーブ、紅丸のような貴重種の栽培などに手を染めて、占領下の立ち遅れを一挙に取り戻そうとしているかのようです。琉球紅馬鈴薯というネーミングにも生産者が込めた思いが伝わってきます。


沖縄の野菜
 沖縄野菜の代表はゴーヤ(苦瓜)です。ゴーヤは、スーパーの棚に季節を問わず並ぶようになりましたが、葉物は流通の問題もあって、まだあまり知られていません。沖縄の葉物は苦みや香りや色彩が鮮やかで、個性という点では京野菜に匹敵する強者(つわもの)揃(ぞろ)いです。ニガナはさっと湯をくぐらせ、刻んで白和(あ)えにすれば、そのほろ苦さと豆腐の甘さが相まって身体に優しく美味しい一品になります。サフナ、イーチョーバ、ハンダマ……。片仮名が並んで、これは何だとお思いでしょうが、みなあの南の強い太陽の光を浴び、赤土に抗(あらが)って育った沖縄野菜です。

 1987(昭和62)年、京都府は「京の伝統野菜」38種(※)を選定しました。京都の伝統野菜は明治以前から栽培されているものに限定し、栽培地域も市内と府内に限るとしています。わたしは、十年ほど前から本土の野菜と区別するために沖縄野菜を島野菜と呼んできました。

 野菜は土と光と水の贈り物。古くからアジア諸国との交易が盛んだった沖縄には、様々な植物が渡来し、定着してきました。基地建設によってアメリカからの帰化植物も増えたようですが、戦前から栽培されてきた琉球固有の島野菜が京都のように選定され、保存育成される日がいつか来るのではないかと心待ちにしています。

 戦後、いち早く米軍の要請によりアメリカの植物学者、エグバート・ウォーカー博士が沖縄全島の植物調査を行いました。ウォーカー博士の調査記録はスミソニアン協会に保存され、まだ和訳がされていないようですが、その記録によるとウォーカー博士は、蕪(かぶら)のような形をした太い琉球大根がお気に入りだったようです。

 潭亭に届いた琉球紅馬鈴薯は擦(す)り流しにして、緑鮮やかなナーベラ(へちま)と併せ、四月のお椀(わん)にしてみました。

※京都府選定の「京の伝統野菜」は38種。そのうち2種は絶滅しており、現存するものは36種。



高木凛

高木凛(たかぎ りん)

~赤坂潭亭主人、脚本家、料理研究家~

東京都出身。80年代後半からテレビやラジオの脚本家として活躍。「黄色い髪」(NHK)、「息子よ」(TBS)などを手がけ、「父系の指」 (TBS)では94年度ギャラクシー大賞を受賞。その後、病気療養で訪れた沖縄に魅せられて、東京・赤坂に沖縄懐石料理店「赤坂潭亭(あかさかたんて い)」を開き、主人となる。

赤坂潭亭ホームページ

このコラムは asahi.com アスパラ で 2007年4月25日 に掲載されたものです

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『まほろば食堂』とは
高木凛が〈心のまほろば〉綴ったエッセイ集です。
昨年一年間、朝日のアスパラクラブプレミアムコラムに連載されました。


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