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月ぬ美しゃ(つきぬかいしゃ)

石垣島の月夜(Photo by (c)Tomo.Yun http://www.yunphoto.net)
 「今度の休みに、石垣へ行くんですが、お勧めはどこですか」とよく尋ねられます。八重山の島々には、この数年の間に立派なリゾートホテルやレストランがたくさん出来ました。尋ねた人が求めているのは、どこに泊まるのがいいですか。どこかいいお店はありませんか。どこが美味しいですか、というようなことです。

 家庭料理を丁寧に作って出してくださる店や、あるいは石垣牛が味わえる店など、何軒か思い浮かぶところがあるのですが、満足の度合いは人によって異なります。

 そうですねぇと少し迷って、月の夜は浜へ出てみて下さいとお勧めしてみました。わたしの好きな八重山民謡にこんな唄があります。

 月ぬ美しゃ 十日三日            〔月が美しいのは十三夜〕
 美童(みやらび) 美しゃ 十七つ      〔乙女が美しいのは十七の頃〕

 東から上がりよる 大月(うふつき)ぬ夜  〔東からあがりくる満月の夜〕
 沖縄ん八重山ん  照らしょうり        〔沖縄、八重山を照らしています〕

 あんだぎーぬ 大月ぬ夜          〔こんな素敵な満月の夜は〕
 我ーがけーら 遊びょうら          〔みんな揃って遊ぼうよ〕

 ゆったりした三線のメロディにのせて歌われるこの歌は、「月ぬ美しゃ」または「夜の子守唄」というタイトルで、八重山だけではなく広く沖縄全島で歌われています。

 沖縄言葉を素直に訳せば、二番の歌詞は、「見事な満月が沖縄、八重山を照らしています」となりますが、重税に苦しめられた八重山の人々は、天の大月(うふつき)に「本島も八重山も同じように照らしておくれ」という願いを込めて歌ったといいます。

 八重山には、同じように月の夜の美しさを歌った「月ぬ真昼間(つきぬまぴろーま)」という歌もあります。これは月が真上に登る頃は、恋しい人がやってくる潮時、お月様、お星様、どうぞ願いを叶えてくださいという恋歌です。

 石垣島や竹富島で夜を過ごす時は、少し早めに夕食を済ませて、浜辺にでます。月が真上に昇る頃は、海面が金色に輝き、浜の白砂に照り映えて、まるで昼のような明るさです。天然水で割って冷やしておいた、飲みさしの泡盛を持って出るのも忘れません。ゆるやかに頬をなぶる風に吹かれながら浜に続く道を歩いてゆくと、時にホウホウと土鳩の鳴く声が聞こえ、ナメクジたちが、光る糸のような線を引いて横切ってゆきます。

ビーチへの道(Photo by (c)Tomo.Yun http://www.yunphoto.net)
 浜に寝ころべば、聞こえるのは波の音だけです。わたしの身体は月の光に包まれて、八重山の大自然に溶けてゆきます。

 大規模な開発のあおりを受けて、この美しい海や浜に赤土が流出するようなことにならぬよう祈るばかりです。八重山の一番の御馳走は、手を入れると染まるといわれるほどの青い海と、大月(うふつき)です。



高木凛

高木凛(たかぎ りん)

~赤坂潭亭主人、脚本家、料理研究家~

東京都出身。80年代後半からテレビやラジオの脚本家として活躍。「黄色い髪」(NHK)、「息子よ」(TBS)などを手がけ、「父系の指」 (TBS)では94年度ギャラクシー大賞を受賞。その後、病気療養で訪れた沖縄に魅せられて、東京・赤坂に沖縄懐石料理店「赤坂潭亭(あかさかたんて い)」を開き、主人となる。

赤坂潭亭ホームページ

このコラムは asahi.com アスパラ で 2007年5月9日 に掲載されたものです

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『まほろば食堂』とは
高木凛が〈心のまほろば〉綴ったエッセイ集です。
昨年一年間、朝日のアスパラクラブプレミアムコラムに連載されました。


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