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新たなる目食(もくじき)

2004年9月9日、夕刊2面に掲載された「以食為天 食で読む中国」(上)と、「食で読む中国-春夏秋冬-」を収録した書籍『加藤千洋の中国食紀行』(加藤千洋著、出版:小学館)
 日本の料理用語に「目食」という言葉は見当たりません。

 この言葉に初めて接したのは、朝日新聞の夕刊に長く連載されていた加藤千洋さんの『以食為天 食で読む中国』という企画記事の中でした。

 わたしたちの世代は、中国が文化大革命や天安門事件を経て、経済主導の社会主義大国へと大きく変わってゆく様子をリアルタイムで見つめてきました。その中国をジャーナリストの加藤さんが、食を通して描いてみようという企画ですから、とても興味深く、また食に係わる者としても見逃すわけにはゆきませんでした。

 「目食」については、そのシリーズの〈夏(7) 丸揚げ鯉に「竜のひげ」〉というタイトルの回の冒頭で触れられていました。

 「中国の食を語る清代の名著『髄園食単(ずいえんしょくたん)』の著者、袁枚(えんばい)は「目食」を戒めて説く。いたずらに品数を増やし、それを眺めて悦に入るのは愚の骨頂であると」。

 そして毎回食卓に木彫りの魚を出されていたのに気がつかなかった西太后は最悪の目食家であるとしています。さらに加藤さんは、もうひとつの哀しい目食についても触れています。映画「黄色い大地」で描かれた農村の貧しい婚礼に登場する木彫りの魚です。招待客たちは木彫りの魚と承知で、箸をのばし、祝い酒をあおるというシーンが紹介されています。

 中国の目食とは、どうやら食卓を賑わすために作られる食べられない料理のことのようです。日本にも目食に似たものに、関西の「にらみ鯛」がありますが、さすがにこれは木彫りではありません。

関西では、三が日に塩焼きのタイを「にらみ鯛(だい)」として飾り、三が日の後に食す。
 いま、日本食が世界的なブームになっているそうです。肉食から魚へと急速なギアの入替えが行われて、即席の不思議な日本料理店が世界各地に出現しています。そのことに警鐘を鳴らす運動があることも知りました。これはとても日本料理とは言えないのではないかというものがまかり通っているそうです。その事を危惧した現地の人々が海外での日本料理店のランク付けをしようと提唱しているようです。

 そうした動きも背景にあるのでしょう。このところ日本の老舗料理店や名店といわれる店のご主人や料理長たちが、海外の料理コンクールや料理ショーに招かれて、これぞ日本料理と披露しているニュース映像や彼らに密着したテレビ番組を幾つか見る機会がありました。

 漆の盆の上に何本かの竹の筒を立てて、その天に料理を盛り、笹をあしらったものがアップでとらえられていました。割れんばかりの拍手で、「芸術的だ」と賞賛されていたものです。これはショーなのだから、あれでいいのだろうと思いましたが、やはり気になります。運ぶときにあの筒は倒れないだろうか。お箸で食べるとき、どうやって食べるのだろう。根本を片手で押さえれば食べられるだろうか。それで料理を味わうことが出来るだろうか。竹を活かした盆景のようなあしらいのなかで、わたしには肝心の料理が添え物としか見えませんでした。

 こうした特別華やかなショーに限らず、高価な和食のコース料理には、皿に簾や蓑、ミニチュアの水車から兜まで飾り立てられることが珍しくなくなりました。ひと皿の料理に、季節感を添えるというのであれば、枝先の花一輪、新緑の一葉で充分です。

 昔から料理は客が育てると申します。けれんの強い「新たなる目食」を好むのもお客様。袁枚に代わって「新たなる目食」を戒めるのもお客様です。

 何を美味しいと思い、何を見事と思い、何を美しいと思うか。お客様の五感に他ならないのではないかと思えるのですが。

高木凛

高木凛(たかぎ りん)

~赤坂潭亭主人、脚本家、料理研究家~

東京都出身。80年代後半からテレビやラジオの脚本家として活躍。「黄色い髪」(NHK)、「息子よ」(TBS)などを手がけ、「父系の指」 (TBS)では94年度ギャラクシー大賞を受賞。その後、病気療養で訪れた沖縄に魅せられて、東京・赤坂に沖縄懐石料理店「赤坂潭亭(あかさかたんて い)」を開き、主人となる。

赤坂潭亭ホームページ

このコラムは asahi.com アスパラ で 2007年7月11日 に掲載されたものです

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『まほろば食堂』とは
高木凛が〈心のまほろば〉綴ったエッセイ集です。
昨年一年間、朝日のアスパラクラブプレミアムコラムに連載されました。


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