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「青いパパイヤの香り」

映画「青いパパイヤの香り」のチラシ
 青く硬いパパイアにすっと包丁をいれると、現れる真っ白な果肉。パパイアに包丁を入れるたびに、緑の皮と果肉の白の鮮やかさにふと手元が止まります。そして、十数年も前にみた映画のシーンが浮かんできます。

 『青いパパイヤの香り』というベトナム映画です。地方からベトナムのお屋敷に奉公にやってきた少女の目をとおして、1951年当時のベトナムの人々の暮らしが丁寧に描かれてゆきます。

 主人公の無口な少女ムイがおばあさんに料理を教わり、若きご主人のために無心にパパイアに包丁をいれ、料理をつくるシーンには、ゆったと流れる時間や緑濃い熱帯の樹木、その木漏れ日を通して、南国の湿り気さえ伝わってくる程です。実際の青いパパイアに香りはありませんが、この映画にはベトナムの暮らしの香りが満ちていました。

たわわに実った青パパイア(沖縄県竹富島で)
 映画とは不思議なもの。記憶に刻まれたシーンが暮らしの一瞬、一瞬に立ち上がってきます。それが映画というもののもつ力であり、芸能というものが人の暮らしに放つ力なのかもしれません。

 この映画に登場した青いパパイアは沖縄でも野菜として日常的に食べられているものです。栽培というよりも自生に近く、離島ではどこのお宅にも庭の隅に植えられているのを見かけます。野菜パパイア、少し熟したものは果物パパイアと呼ばれて、果実として市場に出回っているパパイアの原種と考えられています。

 皮を剥(む)いて二つ割りにし、中の白い種を取り除いて細切りにし、豚肉などと炒(いた)めてパパイアチャンプルーにしていだきます。

 青いパパイアにはパパインという消化酵素が含まれていることが注目され、薬や化粧品にも使われはじめました。

 わたしの店では、このパパイアは開業当初から大根のかつら剥きのように薄く引き、千切りにして水に晒(さら)し、お造り(刺し身)のツマに使っています。

パパイアの実(07年9月、赤坂潭亭で)
 10月はちょっと趣を変えて、このパパイアを赤と黄に染めて、沖縄そばの香の物にと考えています。パパイアの皮を剥いてサイコロに切り、さっと炊いて、赤花(ハイビスカス)とうっちん(うこん)の甘酢漬けにしてみました。

 映画の中の少女ムイは、常に主人を伏し目がちに見上げていました。その遠慮がちな目線が映画に奥行きを与え、けなげさを際立たせていました。料理上手なムイは、赤と黄色のパパイアを見て、何といってくれるでしょう。


高木凛

高木凛(たかぎ りん)

~赤坂潭亭主人、脚本家、料理研究家~

東京都出身。80年代後半からテレビやラジオの脚本家として活躍。「黄色い髪」(NHK)、「息子よ」(TBS)などを手がけ、「父系の指」(TBS)では94年度ギャラクシー大賞を受賞。その後、病気療養で訪れた沖縄に魅せられて、東京・赤坂に沖縄懐石料理店「赤坂潭亭(あかさかたんてい)」を開き、主人となる。

赤坂潭亭ホームページ
関連情報 小学館ノンフィクション大賞を受賞

このコラムは asahi.com アスパラ で 2007年10月3日 に掲載されたものです

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『まほろば食堂』とは
高木凛が〈心のまほろば〉綴ったエッセイ集です。
昨年一年間、朝日のアスパラクラブプレミアムコラムに連載されました。


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