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師走のゴーヤ

牧志公設市場のゴーヤ

 このところこの赤坂界隈(かいわい)にも24時間営業のスーパーがぽつりぽつりと出来はじめました。わたしも店を閉めた帰りがけに、立ち寄ることが多くなりました。11時を過ぎたスーパーはさすがに店員の数も棚の品数も減って、客の様子も日中の買い物客とは随分違います。安いもの、少しでも良いものを選んで買うというような雰囲気ではなく、男性客も多く、仕事帰りに足りないものを、目指すものを、そそくさと買って深夜のとばりの中へ消えてゆきます。

 先夜、四つ切りの白菜などがぱらぱらと残された野菜棚に、なぜかそれだけはたっぷりと積み上げられていました。少し小ぶりで緑の濃いゴーヤです。プレートには「れいし」と書かれています。手にしてみると、ゴーヤの特徴であるいぼいぼが妙に尖(とが)って小さくかじかんでいます。これは恐らく関東近郊のビニールハウスの中で、灯油をたっぷり使って暖をとり、無理やり成長させられたゴーヤなのでしょう。

 ゴーヤは沖縄産というイメージが強いのですが、いまや沖縄に限らず、九州やこの関東でも盛んに栽培され、1年を通して市場に並ぶ野菜となりました。折からの沖縄ブームに乗って全国制覇したのです。でも、ここにこんなにたくさん売れ残っていては、やがてこのゴーヤの棚は無くなってしまうでしょう。余計な心配をして、そのつもりもなかったのに2本買って帰ってきました。

 ゴーヤの和名は蔓茘枝(ツルレイシ)、または苦瓜で、熱帯アジア原産のウリ科の一年生草本です。5月ごろから蔦(つた)が勢い良くのびて葉が茂り、黄色い可憐(かれんな花が咲いてやがて実を結びます。沖縄のゴーヤは、赤土に抗(あらが)い、あの強い光を浴びてぐいぐいと育ち、大きなものは4 、50センチ、太さは直径で10センチほどになります。ひとつひとつのいぼいぼに、ほら見てご覧なさいというほどの勢いが感じられます。

実るゴーヤ

 この季節のゴーヤは、炒(いた)めもののチャンプルに限らず薄切りにして水に晒(さら)し、お浸しに、あるいはさっと油を潜らせて、青みを焼いて焼きゴーヤに。焼きゴーヤには沖縄の油味噌(みそ)、あんだんすを添えて。あんだんすが無かったら、関東の鉄火味噌も良く合います。あまり手を掛けずにゴーヤそのものをいただきます。

 さて、買ってきた2本のゴーヤに包丁を入れてみると、やはり果肉が薄く固い。何にしようと迷っている時、台所の隅の頂き物のリンゴが目に入りました。そうだ、「シリシリ」にしましょ。シリシリとは、その音そのままに擦り下ろすことをいいます。下ろしがねでリンゴを擦り下ろし、それにゴーヤの青みをすくって混ぜます。ゴーヤの苦みとリンゴの甘みが泡盛で火照ったのど元にひんやりと心地よく、下ろし汁も残さず飲み干しました。

 深夜にシリシリをすすりながら、ふと人生の不思議を思います。東京で生まれ育ったわたしが、何の縁もない沖縄料理屋をこの赤坂で始めて10年になります。料理とは元来、その地で生まれ育った人間が作り、その地で食すのが一番のはずです。

 島で生きる、島で暮らすということはどういうことか。理解することと経験することとの間には深い溝があるのではないか。そんな思いが波のようにわたしを襲います。

 わたしはなぜ沖縄にかかわっているのだろう。誰に命じられたわけでもないのです。あえてなぜかを問い返してみると、沖縄にはヤマトが失ってしまったものが、身近な暮らしの中に根づいています。そこに惹(ひ)かれます。それは例えば野菜の苦みであったり、祭りに見る素朴な神々の姿であったりします。しかし、それもどうやら問いの答えのすべてではありません。

 苦いばかりではない、アクも強く色彩も鮮やかな沖縄野菜は、どれも個性が強く、一筋縄では料理できません。この先も沖縄野菜たちと悪戦苦闘しながら、「食う」という営みを通して南の果ての島からヤマトを見つめ、なぜの答え探しをしていこうと思います。



高木凛

高木凛(たかぎ りん)

~赤坂潭亭主人、脚本家、料理研究家~

東京都出身。80年代後半からテレビやラジオの脚本家として活躍。「黄色い髪」(NHK)、「息子よ」(TBS)などを手がけ、「父系の指」(TBS)では94年度ギャラクシー大賞を受賞。その後、病気療養で訪れた沖縄に魅せられて、東京・赤坂に沖縄懐石料理店「赤坂潭亭(あかさかたんてい)」を開き、主人となる。

赤坂潭亭ホームページ
関連情報 小学館ノンフィクション大賞を受賞

このコラムは asahi.com アスパラ で 2007年12月12日 に掲載されたものです

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『まほろば食堂』とは
高木凛が〈心のまほろば〉綴ったエッセイ集です。
昨年一年間、朝日のアスパラクラブプレミアムコラムに連載されました。


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