home > 高木凛のまほろば食堂 > 花の島

花の島

デイゴ

 「デイゴの花が咲き、風を呼び、嵐が来た」

 宮沢和史の『島唄』の冒頭に歌われるデイゴの花は、沖縄が本土に復帰した1972年に「県花」に指定されました。原産はインド・マレー半島ですが、1719年に中国(明の時代)から訪れた册封使(さっぽうし)が記した『中山伝信録』にも、〈宮古島にデイゴの大木がある〉という一文があり、デイゴが沖縄に渡ってきたのはさらにその昔ということになります。

 沖縄は古くからアジアの国々と盛んに交易をしていましたから、花々もまた交易の荷に混じって海を渡ってきたのでしょう。渡来した花々は原産国の名称で呼ばれることは少なく、沖縄らしい別名をつけて親しんできました。

 デイゴの別名は、「屋敷コーサー」で、花は美しいが根の力が強く、家の土台を揺るがすほどだというのです。屋敷コーサーは、高さが10メートルを越す大木もあり、枝先いっぱいに赤い花をつけた姿は、神秘的で底知れぬ力を感じさせ、琉球文化を象徴する花木と言われています。西インド諸島原産のオオゴチョウ、橙色の花を手鞠のようにつける中国原産のサンダンカとともに沖縄3大名花のひとつです。

ブーゲンビリア

 今ではすっかり日本本土でも馴染みの花となったハイビスカスは、沖縄ではアカバナーと呼ばれ、成長も早く強健なので、田畑や海沿いの家々の防風林としても植えられています。アカバナーもやはり、琉球王府時代の15世紀に交易相手国であったマラッカなどから、琉球商人の手によって沖縄にもたらされたものでした。花の美しさに魅せられた薩摩藩主、島津家久は、はるばる江戸まで運び、家康に献上したという記録も残ります。

 アカバナーの別名は、グソーバナ(後生の花)またはブッソウゲ(仏桑華)です。時の将軍にも献上されたほどの艶やかな花が、いつの頃からかあの世の花として墓地に植えられるようになりました。理由は定かではありませんが、朝咲いて夜には閉じるはかない花だからでしょうか。

 アカバナーやブーゲンビリアは季節を問わず咲き誇り、1月から枝いっぱいに小振りの花をつける台湾、中国原産のリュウキュウカンヒ桜、2月になると、パラグアイ原産のイペーが桃色の花を見せ始めます。3月になるとアフリカンチュウリップとも呼ばれるカエンボクが橙(だいだい)色の花を咲かせ、4月からは原色の花々がいっせいに咲き競います。空港から那覇市内にむかう路傍には、黄色いアリアケカズラが咲き誇り、那覇市役所周辺ではマダガスカル原産の鳳凰木(ほうおうぼく)が樹形いっぱいに緋色の花をつけて、思わず立ち止まってしまう程です。公園に足を踏み入れると、インド・ビルマ原産のゴールデンシャワーという別名をもつナンバンサイカチが黄金色の花の房をシャワーのように滴らせています。

ハイビスカス

 改めて見ると琉球王府時代の花々は、東南アジアとの交易の中でもたらされたものが多いことに気付きます。それ以降のものは、原産国が世界各地に広がりを見せています。沖縄の花ごよみは、戦火の後で大きく変わったのです。

 終戦直後の1946年、ハワイから1艘(そう)の船が沖縄に旅立ちました。船は医薬品や豚とともに16トンもの花の種や苗を積んでいました。沖縄出身の移民たちが焦土と化した故郷へ向かったのです。彼らは米兵として沖縄戦に参戦し、生まれ島の惨状を見たのでした。花の種と苗は彼らの呼び掛けに応えた移民たちの故郷への贈り物だったのです。

 その後、1960年代まで、南米などから贈られてくる救援物資のなかには花の種が含まれていたといいます。その花たちがいま沖縄の街路を美しく飾っています。


高木凛

高木凛(たかぎ りん)

~赤坂潭亭主人、脚本家、料理研究家~

東京都出身。80年代後半からテレビやラジオの脚本家として活躍。「黄色い髪」(NHK)、「息子よ」(TBS)などを手がけ、「父系の指」(TBS)では94年度ギャラクシー大賞を受賞。その後、病気療養で訪れた沖縄に魅せられて、東京・赤坂に沖縄懐石料理店「赤坂潭亭(あかさかたんてい)」を開き、主人となる。

赤坂潭亭ホームページ
関連情報 小学館ノンフィクション大賞を受賞

このコラムは asahi.com アスパラ で 2007年1月9日 に掲載されたものです

2007年4月

2007年5月

2007年6月

2007年7月

2007年8月

2007年9月

2007年10月

2007年11月

2007年12月

2008年1月

2008年2月

2008年3月

『まほろば食堂』とは
高木凛が〈心のまほろば〉綴ったエッセイ集です。
昨年一年間、朝日のアスパラクラブプレミアムコラムに連載されました。


当サイトに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。
すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。

沖縄懐石 赤坂潭亭 東京都港区赤坂 6-16-11 浜ビル/03-3584-6646 代表:高木 凛(たかぎ りん)/株式会社高木アソシエイツ